担当音楽療法士の加藤は、これまで20年以上にわたって音楽療法士として高齢者の方々と関わって来ました。
老人保健施設、認知症対応型のグループホーム、有料老人ホーム、デイサービス、精神科病院の認知症病棟、そして総合病院のホスピス病棟など、セッションでお会いした
人数は延べ1万人を超えます。
いわゆる「言葉」を「理性言語」と言うのに対し、「音楽」は「感性言語」と言われています。
音楽があると、そこでは感性によるコミュニケーションが交わされるのです。
音楽によるコミュニケーションには2つの軸があります。
1つは、その場を共にする周りの人たちとのコミュニケーション。
もう1つは、時間軸をさかのぼり、かつての若々しく元気だった頃の自分とのコミュニケーションです。
また、音楽の場では、認知症の人もその認知症の症状を現すことなく自分らしさを存分に発揮し、その時間・場をエンジョイすることが出来ます。
これは音楽が日常の顕在意識を弱める力を持っているからだと言われます。音楽の流れる場では、その人本来の姿が現れやすくなり、誰もが平等に音楽を楽しむことが出来るのです。
また、例えば、独り暮らしをしていてなかなか他人と話す機会のない方も、音楽の場で歌い・話すことで、普段ため込んでいたエネルギーを発散・昇華することが出来ます。
それは施設に入居しておられる方も同じで、病気により会話が困難な方でも歌なら歌えたり、それが難しくても周りの人が歌うのを聴いて楽しむといった形で参加することが出来ます。
こうした効果として、音楽療法は、参加される方の不安状態の改善、うつ状態の改善、QOLの改善などが医学分野で定評のあるイギリスのコクランライブラリーでもエビデンスレベルで評価されています。
ところがこのコロナ禍においては、外出することや人とコミュニケーションを取ることが難しくなり、外部から人を招いてのイベントが軒並み中止となり、適切で有効と思われる刺激を提供することが非常に難しくなってしまいました。
老いは誰にでも訪れるもので避けることは出来ません。どんなに素晴らしい介護を受けていても、10年経てば10年分老いてしまいます。
だからこそ「今」が大切なのです。「今」、そうした適切な刺激を何とかして高齢者の方々にお届けする事。それが求められています。
日本音楽療法学会認定音楽療法士
加藤万吏乃